九州大学大学院医学研究院 社会環境医学講座 連携腫瘍学分野

RESEARCH研究内容

がん免疫応答の解明

免疫チェックポイント阻害剤に代表されるがん免疫療法は、消化器がんをはじめとするさまざまながんに対する全身治療の中心的な役割を担っています。しかし、多くのがんにおいて、免疫チェックポイント阻害剤の有効性が認められる割合は各がん種の10〜20%程度にとどまり、抵抗性の要因は患者ごとに異なると考えられます。そのため、個々の患者のがんを深く理解し、適切な治療の層別化を行うことが重要です。

私たちの研究グループでは、最先端のマルチオミクス技術を活用し、T細胞をはじめとする免疫細胞の特徴や動態を1細胞レベルで解析しています。さらに、空間生物学の進展により、疾患の理解やバイオマーカーの同定において、細胞の位置情報や周囲の環境が重要であることも明らかになってきています。

具体的な研究として、Zenium (10x Genomics) を用いた空間トランスクリプトミクス解析や、single-cell TCR & RNA sequencing (10x Genomics) によるT細胞レパトア解析を行っています。さらに、固形がん組織および末梢血の免疫プロファイリングを目的として、Hyperion Imaging System (Standard BioTools) による空間プロテオミクス解析、およびHelios Mass Cytometer (Standard BioTools) を用いたシングルセル解析を実施し、免疫チェックポイント阻害剤の有効性と関連する新たなCD8⁺ T細胞サブセットを発見しました(Kenro T, 2024, Nat Commun)。

私たちは、より良いプレシジョン医療の実現を目指し、免疫チェックポイント阻害剤投与後の1細胞レベルでの免疫再構築や治療抵抗性メカニズムを解明するとともに、3次リンパ組織をはじめとするがん微小環境内の組織機能やシグナルネットワークの解明に取り組んでいます。


大腸がん発生メカニズムの解明と新規治療法の開発-がん開始(幹)細胞・エピゲノム異常・クローン性造血を基盤とした治療戦略-

がんは多様な要因が絡み合う複雑な疾患であり、その発生や進展のメカニズムを理解することは、新たな治療戦略の開発に不可欠です。近年の研究により、がん開始(幹)幹細胞やエピゲノム修飾、細胞老化ががんの発生・進行に関与することが明らかになりつつあります。我々は、がんの発生機構を分子レベルで解析し、これらの知見を基に新規治療法の開発を目指しています。

-染色体異常、エピゲノム異常と発がん-

がん細胞は正常細胞とは異なり、分化障害を伴うことが多く、その背景にはエピゲノム修飾因子の異常が関与しています。我々は、がん開始(幹)細胞において特定のエピゲノム修飾因子がどのように機能し、がん細胞の分化異常を引き起こすのかを解析しています。また染色体異常はがん発生の主要な要因の一つですが、その詳細なメカニズムは十分に解明されていません。本研究では、染色体異常を有する大腸がんモデルを確立し、これを用いたがんの発生・進展過程の解明を進めています。本研究を通じて、これらの異常を標的とした新たな治療アプローチの確立を目指します。

-細胞老化、クローン性造血とがん微小環境-

近年、クローン性造血ががんの発生や進展に関与する可能性が示唆されています。本研究では、クローン性造血によるがん微小環境の変化を詳細に解析し、特に免疫応答への影響を明らかにすることを目的としています。また、細胞老化はがん微小環境において炎症や免疫抑制を引き起こし、がんの進行を促進することが知られています。我々は、クローン性造血と老化細胞の関係に着目し、老化細胞を標的とした治療戦略の確立を目指しています。

まとめ

がん開始(幹)細胞、エピゲノム異常、染色体異常、クローン性造血、老化細胞といった多角的な視点からがんの発生・進展メカニズムを解明し、それを基にした新規治療法の開発を目指しています。特に、大腸がん幹細胞の分化異常、クローン性造血とがん微小環境の関係、老化細胞除去薬を活用したがん治療の開発など、基礎研究と臨床応用の橋渡しとなる研究を展開しています。これらの研究が進展することで、がん患者に対するより効果的な治療法の提供が可能となり、がん克服に向けた重要な一歩となることを期待しています。


免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測因子の同定

近年、がんの分子生物学的研究が進展し、ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)や、ALK融合遺伝子など、いわゆるドライバー変異を有するがんに対する特異的な分子標的治療が高い治療効果を示すことが明らかになっています。また、がん細胞はPD-1やPD-L1といった免疫チェックポイント分子を介して免疫監視機構からの逃避を図ることが明らかになり、これを標的とした免疫チェックポイント阻害療法が、多くのがん種で導入されるようになりました。免疫チェックポイント阻害療法の治療効果予測には、がん側の因子として組織におけるPD-L1の発現、DNAミスマッチ修復機能欠損・マイクロサテライト不安定性や腫瘍遺伝子変異量(TMB)などが報告されていますが、宿主側(免疫系)の因子で確立されたバイオマーカーはなく、また腫瘍局所に存在するT細胞以外の免疫細胞に対する免疫チェックポイント阻害療法の効果と、それに続く全身の免疫への影響は十分に明らかにされていません。当教室では、免疫チェックポイント阻害剤の治療を受けた患者さんの血液および組織サンプルを用いて、治療効果および耐性に関与する免疫細胞サブセットの解析やサイトカインのプロファイリングを実施し、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測因子および腫瘍免疫に関わる特定のサブセットを同定し、その細胞の機能の解析を進めています。本研究を通じて、より精密ながん免疫療法の確立に貢献したいと考えています。

治療および採血スケジュール

フローサイトメトリーを用いた解析

イメージングマスサイトメトリーを用いた解析


自然突然変異の発生と抑制のメカニズム-DNA修復システムの破綻による体細胞・生殖細胞への影響-

遺伝的変異がどのように発生し、それを抑制する仕組みがどのように働いているのかを明らかにすることは、生命の基本原理を理解する上でとても重要です。突然変異は、体細胞で起こればがんや老化の原因となり、生殖細胞で起これば不妊や流産、遺伝病の要因となることがあります。一方で、長期的に見ると、生物の多様性を生み出し、進化の原動力ともなります。そのため、自然に発生する突然変異の仕組みと、それを抑えるメカニズムを理解することは、生命の本質を理解することにつながります。

これまでの私たちの研究により、細胞が生きていくために必要なエネルギーを作り出す過程で漏出する活性酸素種によりDNA損傷が誘発され、それが自然突然変異の一因であることが分かってきました。しかし、酸化DNA損傷がどのようにして突然変異につながりがんを引き起こすのか、また、生殖細胞の中でDNA損傷が起こった場合、それが次世代の子や子孫のゲノムにどのような影響を与えるのかについては、さらに詳しく調べる必要があります。また、放射線や化学物質によっても様々な種類のDNA損傷が生じ、それが細胞の遺伝情報にどのような影響を及ぼし、突然変異や疾患の原因となるのかについても解明が求められています。このような課題に取り組むため、現在私たちは、DNA修復関連遺伝子のノックアウトマウスを使って実験的解析を進めています。

このようにDNA損傷の発生原因やDNA修復の仕組みを研究することで、生物がどのように遺伝情報を守っているのかを、より深く理解したいと考えています。これらの研究を通して得られる成果は、がんや遺伝病の発生メカニズムの解明に貢献するだけでなく、生物進化の仕組みを明らかにする貴重な手がかりとなります。

主な研究プロジェクト

Germline mutation project

How do de novo mutations occur during the life cycle of germ cells? In this project, we conduct experimental analyses using mouse strains deficient in DNA repair mechanisms to elucidate the types of DNA damage that primarily cause mutations, the timing and extent of their accumulation, and the DNA repair pathways that suppress them. Through this research, we aim to deepen our understanding of the mechanisms that maintain genome stability in germ cells and gain new insights into the regulation of genetic mutations transmitted to offspring. Additionally, utilizing these experimental systems, we analyze the effects of various environmental factors, such as radiation and chemical substances.

Somatic mutation project

This project aims to elucidate the mechanisms of carcinogenesis caused by oxidative DNA damage and defects in its repair system. Using knockout mice for genes such as Mutyh and Msh2, which are known as causative genes of hereditary colorectal cancer, we are investigating the relationship between oxidative stress, mutagenesis, and carcinogenesis.

Oocyte DNA Repair Project : Unveiling Its Role in Embryonic Genome Integrity

Sperm DNA damage is recognized as a risk factor for infertility and miscarriage, while the oocyte’s DNA repair mechanisms are suggested to contribute to normal embryonic development. This study aims to elucidate the underlying mechanisms by using DNA repair-defective mice.

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